過去と今時の性事情

話の居酒屋

第八話

私、この「話の居酒屋」の店主でございます。そんな私がしゃしゃり出て恐縮なんですが、少々、事情説明をさせてください。

先に「第三話」では、「子なしおひとりさま」との話があったんですが、それは上野千鶴子の「入籍」にまつわる週刊誌記事に触れたものでした。そして当居酒屋話では、その「子なしおひとりさま」とは、「子あり」の可能性はありながら、たまたま「子なし」の「おひとりさま」との意味でした。

もう少し事情説明を続けさせてください。

そうした週刊誌記事には、すぐさまに、上野千鶴子が出した反論記事――『婦人公論』2023年4月号掲載――があって、週刊誌記事のいう「入籍」問題がいかに質の悪いものか、本人見解が述べられていましたつまり、その反論によれば、上野氏にとっては、「子のあるなし」以前に、そもそも、婚姻関係をあえて選んでいない、氏の人生の独身志向――「おひとりさま」との言葉自体も氏が使い始めた用語ではないとのこと――上での話で、その入籍も、死に瀕した友人の資産保全の法手続きのための「逆手取った」方法であったと述べられています。

つきまして、その反論記事に立てば、上野氏の場合、先の当居酒屋談の表現である、「子あり」の可能性を含みながらの「子なしおひとりさま」は当たっておらず、その限りでは訂正の必要があるところです。

事情説明自体については以上でございます。

 

そこでなのですが、そんな上野氏とほぼ同世代とお見受けする常連のお客さんが、孫ほどの若い男と、男女関係の時代ギャップについて、昔って、それほどに純真だったかとほのぼのとさせられる、こんな会話をしてました。

 

常連客(Aさん) 上野千鶴子じゃないが、僕も「おひとりさま」でね。だが、彼女とは違って、むしろ「ダブル偶然おひとりさま」だね。つまり、ちゃんと「子あり」となってもおかしくはなかったが、結果的には「子なし」。で、ご存じのとおり、いまだにひとりだね。まあ、一緒に暮らしてる子なしの人生シェアー者はいるが。

若い男 Aさんの言う「子なし」って、それだけのことはしながら、結果的にそうだったってこと。つまり、成り行き上の子なし? 

常連客 イヤ、「成り行き」っていうのは正確ではないね。後でいうけど、やむない事情があった。

そもそも僕はね、男と女がだんだんと関係を深めていく中で、性行為が起こるのは自然な流れだと考えていたし、実際、そうなった。だから、二人が性行為をするようになった段階で、それはもう、妊娠という結果は起こっても当然なことだった。少なくとも、そこまでの覚悟はした上のセックスだった。決して、今でいうカジュアルなセックスが蔓延してる、そんな時代じゃなかったね。

若い男 そのセックスって、じゃあ、プロテクションもなしで? 

常連客 今の常識ではちょっとありえないことだろうが、そう。つまり、そこまで親密になった相手について、セックスするけど妊娠は避ける、そういう二つを別々にするドライな考えはなかったね。だってそうだろう。一方はいただくけど、他方はいらないなんで、相手にいかにも失礼じゃないか。だから、避妊を考慮してのぞむってこと自体、相手をバカにしていることだとも思っていたね。

若い男 何か、超、真面目な話に聞こえるけど、、、

常連客 もう、50年も前のことだから、時代は違っていた。それこそ「婚前交渉の是非」なんて言われてた時代さ。だから、思い至った二人が、「婚前交渉」するわけだから、それくらいの真面目さなしではありえなかった。お互いに。

それにだね、今にして思えば、それは若さゆえのことで、むろん若気の至りでもあった。ともあれ、そうした二人の間に出来上がってゆく関係って、それこそ二人だけが創れる愛一色の世界だった。

そんなところに、たとえばコンドームの着装なんてこと、頭に浮かぶかい。むろん、ナイーブといえばその通りだが、だからこそ、その結果に起こってくるあらゆることについては、妊娠にしろ、結婚にしろ、ただ、美しく神聖なこととして、セットにして受け入れられることだったのさ。

若い男 その時代、誰もがそうだったの?

常連客 今のように、多くの異性を体験でき、それから選べるという時代ではなかったのは確か。これは友人の範囲での話だが、大抵、結婚した相手は初めての女性だったよ。そこではむしろ、初めての出会いがもたらしたそれだからの意味を、素直に深められた時代だった。

若い男 時代の違いと言えばそうだけど、今はむしろ、選択の相手は無数にいて、その中からベストの選択をしなくちゃならない。それが一種、面倒になっている。だから、彼だの彼女だのが、それほどに重大なことなのか、そこまで素直に燃え上がれる問題でもなくなっている。

常連客 だからね、当時の僕の胸のうちだけど、まわりでたくさんの結婚成立の話があったけど、男と女が妊娠もないのに結婚をしてゆくこと自体が理解できなかった。つまり、だんだん深まってゆく二人の関係のどこに達すれば、それが結婚の条件となるのか、それが判らなかったね。だからまわりがどうして結婚を決心できたのか、不思議だったね。そうだから、いわゆる「できちゃった結婚」が本道だと信じるしかなかったね。むろん、僕の結婚はそういう結婚だった。

若い男 でもAさんの場合、後でその人と離婚したんでしょう?

常連客 話は簡単じゃないんだが、そうして結婚を決心した後に、その妊娠は想像妊娠だと告げられた。まあ、そういう判定ミスもあるのかと、決めた結婚はそのまま進めたし、その後も、避妊なしのセックスは続けた。それに加え、さらに問題が生じた。相手が病気になって、子供作りどころの話ではなくなった。それから離婚へと向かう話は、これは別の問題がからんだややこしい話。だからそれはまた後にしておこう。

そうしたことが、いま、僕が「子なし」である理由でね。

若い男 そのややこしい話、それって、けっこう今的な話にも通じると思うけど、またの機会にしましょうか。

常連客 ところでね、最近、「射精責任」って言葉や議論があるようだけど、これって、今時の女性って、自分の中に射精されることに、そこまであなた任せってことなのかと不思議なんだが。

若い男 射精が、男女が入り混じる機会が拡大する中で、相互意思確認、ことに女側のOKのはっきりしない状態でされてしまうということ。

常連客 それって、まさか暴力による射精ってことじゃないだろう。むろんそれなら「レイプ犯罪」だ。

若い男 まあ、そこまで暴力的ではない場合でも、アルコールの勢いとか、ことの成り行きとかで、相手のOKもなく、性交して射精におよぶという、言うなれば「セミレイプ」状態のこと。だから、ことに男は、そんなことをするなという意味での「責任」。

常連客 なんだかどっちもどっちで、そこまでセックスがカジュアル化したことの現れなのかね。なんだか寂しい話でもあるね。

若い男 それともっと深くは、たとえ合意のうえの射精でも、その結果、生まれた子供への養育責任にまでおよぶ。少なくとも半分は射精がゆえの「責任」。

常連客 それは今的だ。僕の時代の射精とは、マスターベーションはともあれ、実際に相手あってのことなぞ実に限られていたからこそ、実に真面目に、射精から、それこそ「できちゃった結婚」まで、全責任を覚悟してた。もちろん、その時代での責任感だが。

若い男 確かに、昔のほうが、子作りとの面ではプロテクションは低かった。だからちゃんと子供ができ、人口も増えれたのかも。

 


 

【まとめ読み】

第一話 料理は身を助ける

第二話 「うら、おもてなし」

第三話 上の口と下の口

第四話 「粒子」と「波雄」

第五話 秋の日本へ

第六話 きれい好き日本

第七話 道路と鉄道って、別々でいいの?

第九話 人にある男女の調和

第十話 新旧「君たちはどう生きるか」を体験して

第十一話 えっ、「発達障害」? 俺だって

第十二話 「年寄りの冷や水」しようぜ

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