先月20日、めでたくというか自動的にというか、とにもかくにも、喜寿、77歳に達しました。
いやはや、これほどスムーズかつ意気軒昂にこの節目に至れるとは、正直なところ驚きです。たとえば、20年前に想像していたこの齢の自分なら、もっとしょぼくれたジジイです。
それがいま、実際にその歳になった自分がここに実在していて、幸いなことに、そんなネガティブな思いはまずありません。
身体面でも、男ならほぼ誰もが持つ前立腺肥大とそのヤヤ癌兆候はあるものの、そのほかでは、何の問題もないと言えるほどです。むろん油断は禁物ですが、常用する薬もゼロで、定期健診に訪れるドクターからも、「その歳にしては、、、」と、一目置かれています。
そんな具合で、今後迎えることになるだろう、おそらく、二、三十年の年月をどう有意義に“終活”しようかと、意欲の萎える気配もありません。
そんな先日、快眠でリフレッシュされた寝起きの頭に、ふと、SF風なストーリーが浮かんできました。
数百年か数千年か、ともあれ、人間社会のけっこうな変遷をとげた後の話らしい。
コンビのように気の合う友人同士、粒子(TSUBUKO)と波雄(NAMIO)が、陶酔性飲料を供する、ただならぬ懐古調をかもすGANSO-IZAKAYAと呼ばれる店で、大いに話をはずませている。
「ねぇNAMIO、この前、歴史情報アーカイブで知ったんだけど、人間って、ずうっと昔、男女の区別が猛烈だったんだね。それで、今じゃ信じられない禁忌や格差まであったらしい」と粒子。
「そうらしいね。その頃は、服装や外見、言葉使い、生き方まで、男女が理由で分けられていたというしね」と波雄。
「つまり、人間に大きく二分されて生きる世界があって、誰だってそのどちらかに属さなくてはならなかった。むろん、中間や第三者なんてなし。白か赤のどちらかのみ。そんなことって、考えられる? 戦争でもあるまいし。確かに、いまの我々も、生物的には性別のなごりの器官は持っているけど、それって、顔や性格の違いとどう違う。それをどっちかにしろって、そもそも大きなお世話だし、プライバシーの侵害じゃない。」
「今じゃそうなんだけど、その時代の男女区別って、子作りにかかわるそれこそ命の源で、恐ろしく神妙なやり取りやら慣習がはびこっていて、誰も、どっちかの役をしなくちゃならなかった。今なら、子供を持ちたければ、相手を決めて二人が合意さえすれば、あとはほとんど所定の医療プロセスだよね。人によっては、まるで事業の一種みたいに考えてる。それに、望むなら、おひとりさまだって出来るし。」
「ところで、NAMIO、あなたって子作りには、相手との直接の部位接触でしたいタイプ。それとも、所定プロセスに任せてしまうタイプ?」
「両親の話では、僕は後者のプロセス任せでできたらしいし、そっち派かな。」
「私はどうも、直接派の子みたい。両親を含めて代々、その行為を愛情や信頼関係の証と考えてきたらしい。けっこうロマンチックだったよう。どっちにするか、私はまだ決心できてないけど。」
「今の我々って、人生の楽しみはそれこそ人それぞれで、ロマン派だろうがドライ派だろうが、それもそのうちの一つにすぎないよね。だけど当時、その子作りは誰もが一度は果たさなきゃならない重大義務だったらしい。それもね、その部位接合が快楽として不自然に誇大容認されていて、それが子作りへの刺激や誘導にもなっていたみたい。だから、それを我欲的に得ようとするフトドキ者もいて、トラブルどころか犯罪まで起していたというしね。まあ、今日までの人類の繁栄って、そんなあれこれの産物なのかも。」
「そんな時代を野蛮とは見たくないけど、どうしてそんな単純素朴なやり方に頼っていられたんだろう。不思議だね。」
「いまの我々って、男女二分どころか、それこそ人の数だけの違いがあって、その限りない組み合わせを、誰もが楽しんでいるし、追求してるよね。そしてそれを達成した、百花繚乱どころか、千花、万花繚乱なバラエティーがまぶしく美的だよね。」
「そう、そうした野蛮っぽい分化をこえて、個性って、どんどんデリケートに深堀りされてきている。昔は、LGBTQ+とかって、冗談みたいに大まかな違いが主張されていたらしいけど、それくらい単純粗野な時代感覚だったんだ。」
「笑っちゃあいけないけど、その当時の人が、いまのこの万花繚乱をみたら、もう、パニくって、おびえちゃうかもね。」
「我々の名前の“粒”と“波”だって、お互いの両親たちにしてみれば、一時言われたすべての根源である物事の相補性にちなんだつもりだったのだろうけど、もう、それも昔話になっているしね。」
「でもさぁ、その名前のご利益はあるみたいね、私たち、、、」
「ところでこのドリンク、いま流行りの、ロマンチックな酔い心地を売り物にしているアレ?」
【まとめ読み】
第一話 料理は身を助ける
第二話 「うら、おもてなし」
第三話 上の口と下の口
第五話 秋の日本へ
第六話 きれい好き日本
第七話 道路と鉄道って、別々でいいの?
第八話 過去と今時の性事情
第九話 人にある男女の調和
第十一話 えっ、「発達障害」? 俺だって
第十二話 「年寄りの冷や水」しようぜ