「うら、おもてなし」

話の居酒屋

第二話

筆者 「ひいきの引き倒し」という言葉があるよね。ひいきもやり過ぎると、かえって逆効果になる、という意味なんだろうけど、いまの日本を見ていると、それが、そうなってるとも気付かれずに、ずんずん広がってる。

友人 それって、「ひいき」するのが外人でなく、日本人が日本をってこと? 

筆者 そう。

友人 解らんでもないが、でも、どこが「引き倒し」なんだ。しかも「気付かれずに」って?

筆者 まあ、いろいろ挙げたいんだが、たとえばその筆頭が、ネットニュースなどにひっきりなしに登場する、日本の「おもてなし精神」の自画自賛記事だ。それに、日本はいまや沈没列島で、だからメディアも人々も、浮かんだ話にとびつく。だからそれに引きずられてか、大手紙なんかも、だんだん右にならえになってきている。もう日本の世論は、日本人による日本びいき一色って感じだ。

友人 「自画自賛記事」って、どれがそうなんだ?

筆者 コロナが何とか収まり、ようやくインバウンド旅行者が戻ってきている。そうした海外からの旅行者たちが、日本らしいトコロやコトやモノに目を輝かせる。むろん、わざわざ日本にやって来てるのだから、それはそれで当然だろう。けれど、それを報じる日本側の姿勢が、やたら卑屈っぽいんだな。外人旅行者が、物珍しいものに興じるのは、それこそ外人らしく、いかにも率直でいい。だがね、それでも、物見遊山を大きく越えているわけではない。なのに、それを受け止める日本の側が、日本は世界中から好かれているとでも言いたげの有頂天さで、「おもてなし」のオンパレードだ。

友人 そうかなあ。どこでも商売ってそんなもので、商機は逃したくないだろう。いまのしぼむ一方の日本、そしてますます苦しくなる生活事情にあって、そうやって日本らしさを楽しんでくれて、お金を落としてくれるなら、それこそ誰も損しない「ウィンウィン」状態じゃないか。まして観光地にしてみれば、コロナのせいでこの数年、自粛による自粛をかさねてきて、ようやくその自粛地獄脱出の日の目が見えてきたところだ。歓迎一色になるのも当たり前じゃないか。

筆者 ソロバン勘定で言えばそうだろう。だがそれって、かつての輸出大国日本が、もはや観光を売り物にせざるを得なくなるまで落ち込んでるってことの反面じゃないか。世界のどこにだって、いろんな「らしさ」はあるだろうが、それは売り物にするものなんだろうか。つまり、売り買いすべきじゃないことまで、売りに出されている。以前、日本経済が破竹の勢いの頃、多くの貧しい国が観光立国をねらって、日本や世界のお金持ち国からの旅行者誘致に懸命だったし、今もそうだ。正直言って、当時、それは国を挙げた売春ビジネスのようにすら見えたものだ。そんな貧しい娘を売るような姿といまの日本が重なってしまう。考え過ぎだなんて言うなよ。日本のそこまでの落ち目のいたたまれなさだ。

友人 「落ち目」と言えば確かにそうかもしれん。日本に暮らしている日本人なら、じわじわとにじり寄ってくる上げ潮のような暮らしにくさは誰もの実感だ。それは誰も否定しないだろう。だがね、そういうじり貧状態の蔓延のなかで、それでも、日本人はよくやっている、そういう「せめて」って気持ちや感慨の共有は無視できない。

筆者 「自分をほめてやりたい」とか、臥薪嘗胆で頑張り抜いてきているって話かい?

友人 今に見ろとの単純な勝ち負けストーリーを越えて、何か違った風に再登場してきてるって感じ。例えば、スポーツ選手のパフォーマンスや、もう世界的に知られてきていると思うけど、日本のサポーターや選手自身の世界のどこへ行ってもの「行儀の良さ」がある。これは日本の報道の言葉だけれど、「日本の品格」。それも、ゲームに敗れても、それでも後片付けをきちんとやっていたとの品格ばかりか、勝負に勝っても、おごらず同じようにやっている、そういう日本的なところに世界は驚いている。

筆者 確かに、日本国内ではそう報じられているね。ことに海外での報道内容が、日本ではおおいに輪をかけて拡大されてね。オータニ選手の活躍なぞ、まさにその超典型だ。そういう海外での驚きや評判は外れてはいないだろうし、それはそれでいいんだ。だがね、俺がひっかかるのは、それの日本側での受け止め方だ。そういう「ほめことば」って、本来、謙虚にいただいて置くってのが日本らしさだったのではないのかなあ。だからつい、「ひいきの引き倒し」って苦言したくなる。そして、そうした日本らしさへのあっけらかんな注目に浮足立って、そのうち、それが独り歩きしだして制御がきかず、「OMOTENASHIの国、JAPAN」なんてPRコピーをぶち上げるんじゃないか。なんとも薄ら寒い。落ち目になっても行儀のいいのは、むろんだれにでもできることじゃない。しかし、「じり貧」になろうが「富裕」になろうが、肝っ玉の座った「らしさ」だったのじゃないか。

友人 美風まで売りに出す、窮する民族ってとこか。うーん、それというのも、何だろう、「貧者のむさぼり」なんて言えば反発炎上をくらうだろうが、どうも、肯定されることに飢えさせられてきたところはあると思うな。とくに若い世代には、、、、

筆者 俺はジジイだからなおさら思うのだが、日本らしさと言うのなら、そのらしさとは、ぶれない深いところで謙虚に保持するものだ。「品格」って、いまさら、しかも外から言われて喜ぶことなのか。ともかく、「うらのある、おもてなし」なんて、しゃれにもならん。

―― どお、もういっぱい。

 


 

【まとめ読み】

第一話 料理は身を助ける

第三話 上の口と下の口

第四話 「粒子」と「波雄」

第五話 秋の日本へ

第六話 きれい好き日本

第七話 道路と鉄道って、別々でいいの?

第八話 過去と今時の性事情

第九話 人にある男女の調和

第十話 新旧「君たちはどう生きるか」を体験して

第十一話 えっ、「発達障害」? 俺だって

第十二話 「年寄りの冷や水」しようぜ

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