「私、陰謀論者よ」

話の居酒屋

第十三話

今日の居酒屋談義、隣で話している男女二人の会話の盗み聞きである――――。

「ねえねえ、私って、けっこう熱心な陰謀論者だってこと、知ってた?」

「陰謀論」という何でも包める風呂敷

「おいおい、陰謀論者って、ありもしない勝手な話を作ってネットで拡散させる、あの陰謀論者のことか?」

「そうよ。あっちが言うにはね。」

「ええー、びっくりだな。君って冷静だし、そんなミーハーな人とは思ってなかったけど。」

「あらあら、ミーハーで悪かったわね。大きな見込み違いだったってことね。」

「なんで陰謀論者になんかになったんだよ。」

「ちょっと、トリッキーな話から始めるわよ。」

「どうぞお好きに。」

「『嘘つきが、お前は嘘つきだと言った』。この話って、どっちが正直者?」

「こりゃあ確かにトリッキーな話だ。でも、だからどうなの?」

「この嘘つきの話を言い換えるよ。『陰謀論者が、お前は陰謀論者だと言った』。さあどっちが陰謀論者で、どっちがまともな人?」

「どっちもどっちだろう。『目くそ鼻くそを笑う』の話だ。」

「そうなのよ。もともとはね、陰謀論って、その『目くそ鼻くそ』効果を演出するための政治宣伝テクニック。」

「どういうこと?」

「あえて手を染めてる黒を黒と告発されれば、誰だって、俺は白だって反論するでしょう? ことに政府なんかは。」

「政府の隠蔽行為ってことか。」

「たとえばね、いまの自民党のパーティー券による裏金作りにしたって、あるいは、アメリカ政府の外国政府転覆工作にしたって、権力ってどのみち、その手の秘密を持っていない権力ってありえない。それが権力というもの。そもそも、CIAだの諜報機関だのって、それが秘密だから存在意義のある政府組織でしょう。顔に『私はスパイです』って書いてるスパイってあり得る? つまり、秘密を活用しない政府があるなんて、そもそもの認識不足。むしろ、そう、誤解させるための宣伝が、陰謀論者っていうレッテル貼り。あるいは、何でも包んでしまえる風呂敷。」

「つまり、隠蔽工作のための手段?」

「煙幕張りって言ってもいい。」

「そういうことかも知れないけど、政府には、公明正大な部分もなくては困る。それが前提のはず。」

「まあ、教科書的にはそうね。どこの政府も振り出しはそうだったかもしれないね。でも、それが長期にわたると、秘密やウソが累積し、のさばってゆく。つまり、そういうウソ部分に対しては、国民の側もそれを暴くことをしないでは、その公明正大な部分が遂にはなくなってしまう。ところが、政府にしてみれば、そうした暴露がされれば大いに困るわけだから、それを隠すために、暴露する人たちを『お前は嘘つきだ』と言う代わりに、『お前は陰謀論者だ』とレッテルを貼る。あるいはそういう大風呂敷で包み込む。そうしていったん、そうした嘘つき呼ばわり合戦になれば、もうすべてがうやむやに化してしまって、やがて暴露騒ぎも雲散霧消する。そこが正論を述べる人を陰謀論者って呼ぶねらい。」

「じゃあ、俺が君のそういう告白に驚いていたのは、政府の宣伝にもう乗せられていたってことか。」

「だから政府にとって、メディアと言う宣伝装置を掌握するのは、今のような一応の民主主義の時代には、絶対に外せない仕事。」

「こっちにしても、毎日毎日、同じことを聞かされれば、どんなウソでも、そんなもんかと思ってしまうもんね。」

「だから、こちらにしてみれば、相手がウソをつくのだから、それを暴く追及は緩められない。いわば権利みたいなもの。だから、自分は正論を言ってるだけだけど、あっちからは、陰謀論者のレッテルを貼り続けられることとなる。そんないわれのない陰謀論者は、私に限らず、山ほどいるんじゃないの。」

「キツネとタヌキの騙し合いってことか。」

「キツネとタヌキなら、ムジナ同士でお互い様だけど、私たちって、ムジナどころか、れっきとした人間でしょう。」

 


【まとめ読み】

第一話 料理は身を助ける

第二話 「うら、おもてなし」

第三話 上の口と下の口

第四話 「粒子」と「波雄」

第五話 秋の日本へ

第六話 きれい好き日本

第七話 道路と鉄道って、別々でいいの?

第八話 過去と今時の性事情

第九話 人にある男女の調和

第十話 新旧「君たちはどう生きるか」を体験して

第十一話 えっ、「発達障害」? 俺だって

第十二話 「年寄りの冷や水」しようぜ

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