「弯曲」使った「近回り」

〈連載「訳読‐2」解説〉グローバル・フィクション(その31)

これまで、反重力とかタイムトラベルといったものを、純粋にSF的テーマとして、親しみはしながらも、現実とは一線も二線も画したものとして受け取ってきました。それが、本訳読を開始以来、ことに今回の訳読を体験することで、むろん、その専門分野が飲み込めたということではないですが、なにやらリアルな世界である感触がしてきています。少なくとも、単なる“絵空事”は超えたものとして。

むろん、そうした“現実事”も、事実は機密の分厚いベールの向こう側に、軍事的には言うまでもなく、科学的にすら隠蔽されており、常識的にはまだまだ遠い世界の話です。

軍事的利用が最優先されるとしても、そうした超最先端分野の開発がオープンな環境でなされたとするなら、従来の科学技術の世界は一変するはずで、その成果の人類社会への貢献度は計り知れないと思われます。その機密扱いはきわめて残念なことです。

もちろん、反重力に関連する一連の技術が一般社会にも広まれば、既存の石化エネルギー産業は壊滅的となるでしょう。隠蔽が望まれる事情には、そういうこともありそうです。

 

ところでこれは、私の卑近な想像なのですが、空間のゆがみとか弯曲といった宇宙物理学的テーマに関し、身近なたとえ話を空想してみました。

たとえば、1次元上での2点間の隔たりといえば、直線的な長さとなります。私たちにとって、物理的長さのほとんどはこの線的数値のことで、たとえば、200メートルの競争といえば、直線状のそれだけの長さを競う競技ということとなります。むろん、現実の競技では、競技場の長円型のトラックで、それを《半周》して行われます。そこでこの「半周」なのですが、誰かがその半周をぐるっと回らず、スタート点からゴールへと真っすぐフィールドを横切った場合、それが最短距離のはずですが、むろん競技ルール上では許されずにその人は失格となります。

つまり、この競技の上では200メートルの1次元的直線距離は、現実の上では2次元の平面上の長半円に弯曲(カーブ)しているわけです。そしてその弯曲した「事実」を利用すれば、はるかに短距離ですむということになります。

これを、2次元と3次元の間で考えますと、球形という立体とその曲がった表面があげられます。たとえば、地球という球体において、そのA地点からB地点までを旅行するとなると、海路であれ空路であれ、表面上(あるいはその上空)を、球面にそってぐるっと回ることとなります。こういう球体状に弯曲した距離でも、その両地点間を地球内部を通る直線を通れば、これまたはるかに短距離の旅行がありえることとなります。

さて、以上までは、3次元世界に住む私たちの頭でも理解可能です。そこで、3次元以上の世界を想像した場合でも、同様な弯曲がゆえの「長距離」と、その歪みを利用した直線的「短距離」という違いがありそうです。つまり、私たちにその弯曲の姿は見えませんが、不可知な弯曲自体は存在していそうです。

たとえば、宇宙における遠い銀河までの距離が1万光年であるとした場合、この距離とは、とうやら光が地球上の定義において、弯曲した空間をそれにそって旅をしてきた3次元上の距離としての1万光年であるはずです。上の例でいうなら、半円トラックを律儀にぐるっと回った距離がそれで、その一方の、ルール違反の最短距離があるはず。

つまり、多次元な宇宙空間の弯曲を利用したなら、こうした「近回り」もありえることが想像されます。

反重力とか、タイムトラベルとか、光速以上の速度とかとは、どうやら、そういう弯曲に関係していることのようで、次元間の移動の実行によってそれは可能となります。ETたちは、どうやらそうした「近道」を通って――何万光年なぞ費やせず、ほとんど瞬時に――地球にやってきているようです。

 

それでは、その次元間旅行の手法へ、ご案内いたしましょう。

 

 

 

 

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