ある「労使共同」のこころみ

修行風景 中堅編(その6)

この修行中堅編が、それを修行と呼ぶにしても、もはや、競って腕を磨くという立場ではなくなっており、あくまでもリリーフ役に徹するものであるとの狙いは、これまでにも書いた通りです。

それに加え、こちらがいかに頑張ってみたところで、やはり、周囲の若い人たちから見れば、老人然としたところがあるのは明らからしく、いたわられるという程ではないにしても、それなりの配慮は頂戴するところとなっています。

先週も、あいにく皿洗い器が突然にダウンし、やむなく、すべての食器を手洗いしなくてはならない事態となりました。加えて、こういう時に限って、客の入りは普段以上で、それこそキッチンはてんてこ舞いな状態に陥りました。

こういう危急の時、その予期せぬ余分の作業をこなし、他の平常の業務にできるだけ支障をきたさないようにする、それこそリリーフ役の出番たる場面です。

それに、そうした緊急事態ではない通常の場面でも、こうしたリリーフ役は、これから経験を積み、自分や家族を将来にまでわたって背負って行くはずの若い人たちの伸びしろに、あらぬ邪魔をしたくはないというものです。

そうでなくとも、一時期に比べ、たとえば自分の腕や指の動きが、やはり、機敏さはおとり、精度も鈍ったものとなっていることを、一番よく知っているのはこの私です。

いわばこの役とは、若い人たちを前面に立て、その技量の伸びにできる限りの機会を与え、自分はその調整の作業に徹することをよしとする、そうした黒子のような役割です。

おかげで、オーダーの殺到する時は所定の仕事をこなし、繁閑の合間をみて皿洗い器の代役をはたしたその日は、腰は痛み、肩はこり、疲れは並ではありませんでした。そうした一日が終わって着替えようとすると(この店は、夕食のまかないは持ち帰り食として提供される)、頼んだわけでもないのに、私のために特別なベジタリアン食が用意されていました。

 

こうした最近の状況であるのですが、そこに、この7月1日から始まった新年度にかかわり、おもしろい機会が与えられつつあります。

それは、連邦政府が新年度予算の編成に当って打ち出した新政策にかかわるものなのですが、その予算自体は相当ハードなもので、切詰め予算の典型といってもよいものでした。ただその中に、高齢者の雇用を促進し、年金受給者の就労復帰の呼び水とする狙いと思われる、補助金制度の新設がありました。

それは、50歳以上のなんらかの社会保障支給を受けている人を雇用した場合、その雇用主に、フルタイム労働の場合は年に1万ドル、パートタイムの場合はその時間比例配分相当額を、2年間にわたって支給するというものです。

私はさっそくその詳細をしらべ、それをレストランのオーナーに、「税金を取り戻しましょう」と提案してみました。

彼はおおいに乗り気で、現在その手続きが進行中です。そこでもしこれがうまく認可されれば、私の手取りは上昇し、彼の人件費は削減できるという、一石二鳥の獲得ということとなります。

予想されるマイナス点は、私のような公的年金受給者が就労によって収入を得た場合、ある一定額を越えると、その越えた分の半分――高率です――が、税金として持って行かれることです。この問題も、私の場合は週三日程度の就労ですので、その限度額に達するかどうかは微妙なところです。

さて、この「労使共同」した目論見は、はたして首尾よく行くでしょうか。

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