「多文化」チーム

修行風景 中堅編(その5)

オーストラリアの国是のひとつが「マルチ・カルチュラル」、すなわち「多文化」であることは、もはや世界に広く知れわたっていることです。

一方、料理の世界での「マルチ・カルチュラル」は、「フュージョン」(融合)という言葉で知られ、たとえば、日本料理とフランス料理の「フュージョン」といった具合となります。

いま、私の働くレストランも、そういう意味では、一種の「フュージョン」スタイルです。ただ、日本料理とどこの料理かというと、その組合せはやや多彩で、しいて言えば、日・欧州料理(それにややアジア料理)といったところでしょうか。店長が日本の大手ホテルで修行し、また、オーストラリアでも、オージーがオーナーのレストランで経験を積んできた、そうした経歴が反映しているようです。

まあ、メニュー仕立てはそういうところなのですが、働く人たちの構成という面では、現在、日本、中国、韓国、フィリピンと、オーストラリアの国是通り、「多文化」そのものです。

ことに、その数からいえば、やはり、中国人の若者たちとなります。もはや、この店にとって、彼ら、彼女らの存在なしでは、店はまわってゆかないでしょう。

そいういう意味では、日本からの報道に顕著な、日中間や日韓間の緊張は、ここにはまったく見られません。

それぞれの人たちが、それぞれの生き方を追及している、そういう生活や人生の現場にあっては、互いの協力と、配慮の交換の関係ができていて、それぞれの持ち味もかみ合っています。

そういう日常の実感から見ると、報道上の日中韓間の緊張とは、政治次元であえて作り出されている、ここにあるものとは別物といった感じを深くします。

そして、そういう和やかな「多文化」チームが、オージーのお客さんを迎えて、おいしい「フュージョン」料理を提供し、楽しんでもらっています。

先にも書きましたように、ことにこのレストランの界隈は、シドニーでも有名なお金持ちの居住地区です。お客さんの中に、時折、テレビで見たことのある顔なども見かけます。

これは私の勝手な解釈なのですが、若いアジアの若者たちが、なんとか生き抜く手段をそうして確保し、また、店長も、よく口にする「俺は昔、貧乏だったんだ」という人柄にも込められて、そういう、アジアの“下積み”な人たちの活躍がここにあります。

僕とペアを組んで寿司部門を担当している若い中国人の女性シェフ見習いは、オーダーが立て込んでプレッシャーが頂点に達している時など、僕に言っているのか、自分に言っているのか、「がんばれ、がんばれ」と日本語でつぶやきなが、仕事をしています。

あえて言えば、そういう人たちの、それこそ頑張りや、腕や、心の作り出す味が、そういうシドニーの裕福な人たちの、肥えた胃袋をとりこにしています。

そんなチームの一員に加わって、世代上の“多文化”も醸し出せれば、これはこれで、そういう豊かさもあるのではないか、と考えたりもしています。

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