「私は専念アスリート」

8月23日〈土

今週より、シドニーメトロの新線が運行し始めたので試乗しに出かけた。

最寄りの在来線(週末の線路工事のため振替バス)で四つ先の駅、シドナム(Sydenham)まで行き、同駅からこの新線に乗り、シティーを経て、シドニー都市圏の北西端にあるニュータウン、タラオン(Tallawong)まで、距離にして約50キロ、時間では1時間20分ほどの体験。

地下深くオープンした「新タウンホール」駅

この新線は乗務員のいない自動運転。来年、この運行が、最寄りの在来線にも乗り入れてきて、足の便利さが倍増となる。だが、そのための付け替え工事(在来線と新線が同じ軌道上を走る)で、10月から丸一年、振替バス運行のみとの超不便さとなる。

着いた終点の駅タラオンは、丘陵部の牧場地帯に駅が先にでき、いま、その周辺に新築マンションが立ち並び、その先ではさらなる工事がおこなわれてる。どれもが出来立てで、人間の気配はまだない。駅前のショッピングセンターには、どういうわけか、インド人家族の姿が多い。見かけた不動産屋の係員に不動産価格を尋ねると、こんな辺鄙なところでも、我々の住む地域とさほど変わらない。

70代の日本人としての感覚なのだが、日本が経済成長に沸いていたころ、東京の多摩丘陵地帯に、鉄道の新線が敷かれ、広大なニュータウンが開発された。そんな古い記憶をよみがえってくる。その日本のニュータウンは、高齢化のもたらす一種の過疎化の問題を抱えていると聞く。当地の場合、絶え間ない移民の流入で、基本的に高齢化の問題は深刻でない。半世紀も先のこと、どうなっているのだろう。

帰路、シティーのタウンホール新駅〔写真〕に降りてみた。地下駅なのだが、不思議なことに、日本のように、隣接する旧タウンホール駅と地下道での連結がない。一ブロックのほんの僅かな距離なのに、いったん地上に上がらなければならない。(思うに、新駅はシールド工法で建設されたため、地上への開口部は最小となっていて、それがいま写真のエスカレーターシャフトとなっている。)

 

8月24日〈日

8キロはじり。1時間6分36秒。

最近、自分の運動について思うのだが、たとえば、以前にも書いたように、開始後1キロほどは、体の各部の動きがぎくしゃくして調子に乗れない。そのうち、だんだんとスムーズになってくるのだが、以前はそれを、「体が温まるまで」と考えていた。だが、どうもそれだけではなく、筋肉の動きをめぐる筋肉同士の連動が復活するのに時間を要するということのようだ。まるで、脳がその役を忘れてしまっていて、実際に運動を始めて筋肉の方から脳に刺激を与えて、覚醒させているかのよう。

それを、筋肉を動かすという交換神経作用と、内臓を含む体全体の調整をおこなうという副交感神経の間の連動が悪くなっているのではないかと思う。どうも、この両神経系の連動を行う機能は、老化によって弱るようだ。

あるいは、歳をくってからの運動こそが、その連動によっているのであり、若い頃の運動は、交感神経のみで行っていたのかもしれない。いわゆるスポーツは後者であり、生活に取り入れられた運動は、前者であるのだろう。いわゆる「慣れ」と言われるものは、前者の運動で起こることなんだろう。

と言うことは、運動を両神経の連動した運動へと「慣れ」させることで、人間の機能も身心連動するということなのではないか。それが、運動の栄養素化ということなのだろう。

 

8月27日〈火

10キロはじり。1時間23分50秒。5キロの折り返し点が43分46秒だったので、帰路の5キロは40分4秒だったこととなる。ということは、平均キロ8分1秒。最後の1キロは7分44秒。急に暑くなった気温25度の中で、大汗をかいた。

運動が「仕事」とは、もう何度も書いてきている。それも、この「仕事」とは、稼ぎもない「無賃仕事」と言う意味で、100パーセントの「身体働き」のみ。

そうなのだが、午前中の働きはルーチン作業を越えず、ある種のフラストレーションで満たされていたところに、その挽回をねらって運、そしてこの事後のこの。これはいったい何なんだろう。

そこで思うのだが、ここには、「身体働き」への一種の偏見があるのではないのだろうか。それはただ、体を動かしているだけで、何も生産していないという卑下だ。ところがどうだ。この爽快感、達成感をもって、今日前半の暗鬱が一転して、気分上々の後半を迎えられている。前半のままで一日を過ごしていたら、それこそ、うつ病一歩手前の気分である。これを、何も生産していないと言えるのだろうか。確かに、金銭的余剰生産はゼロだ。しかし、この事後の充実感を基盤に、気持ちの大らかさに加え、一種のクリエイティブな気分が満ち満ちてきている。

現在のところ、運動は、進んだ認識としても、健康回復の手段として着目はされ始めている。だが、それは、失った何かの回復のためであり、新たなものの創造のためではない。

私のこうした体験から言えることは、運動とは、そんな受動的ものではない。その身心の全体を駆使して全身にみなぎらせる意欲のジェネレーターである。筋肉運動と頭脳運動のコラボレーションによる、何かを創り出すための意欲充溢である。

私は、今日をもって、運動の認識を変える。

「私は、専念のアスリート。しかも、スポーツ記録を更新するための専念ではなく、新しいものを創るための専念アスリート。」

そんな感じの初歩を、運動による肉体作用と何かの生産を結び付けようとして、農業という仕事を考えてもいた。

だが、運動とは、肉体作用ではなく、肉体と精神とのコラボレーションなのである。だからこそ、その運動の産物とは、そうした充実感という産物なのだ。

 

8月30日〈金

「はじり」との自分の造語の発端をしらべてみたのだが、それは2013年9月7日の記事「質より量で“はじろう”」だったのだが、このちょうど11年前の当時、キロ8分ではなく、時速8キロということで、キロ当たりにすれば7.5分ということだった。つまり、いつの間にやら、8という数字が、時速からキロ当たり分に代わってしまっていたわけだ。それにしても、キロ7.5分なんで、今では到底無理。火曜のラストスパートの1キロだけでも、7分44秒。11年間に、それだけ、老いさらばえたということだ。

 

8月31日〈土

今月のはじりを集計してみた。月合計で119キロ、一日平均3.84kmで、キロ当たり平均では8.17分だった。これが、7月、6月共に8.21分だったので、0.04分、2.4秒縮まっている。

 

9月2日〈月

快晴なのだが強風。ためらったが、その中をはじる。向かい風と追い風にかき回されたのだが、プラスマイナスはゼロではない。向かい風に邪魔される。タイムは平凡に66分10秒。6分の壁のうち。

 

9月4日〈水

6分の壁破り寸前の1時間6分6秒。

終わって、芝の上に座してサンゲイジング。その爽快感と充実感がミックスしたポジティブ感は、やはりただ物ではない。

それは、何か新しい生き方の断面かも知れない。つまり、心と身の両活動がもたらす総合効果で、たんなる運動効果ではない。両方の活動が相互に高揚し合うシナジー効果。

この運動効果を〈アスリ・メンタル・ハイ〉――略して「AMH」――と呼ぶとしよう。すると、高齢化のもたらすフレイル傾向のいまだからこそ、このAMHは、運動効果に見える。だが、若い時分は、この相互効果は当たり前のことで、だからゆえの高パフォーマンスを示していた。(「コスパ」なんて略語にならって言えば、「人パ」の高さは、このAMHによる。)

私の場合、好都合に運動の機会を続けられたため、むしろ、無いのが通常のところに、在ってしまっているため、それが目立っているだけだ。

社会的に見れば、運動しない日常生活が陥る片務状態は、それ自体が異常な常態なのだ。今後、情報社会がさらに進めば、まさに、身体的退化がもたらす精神不全がおこり、身体と精神の両面の不全がもつれ合った、深刻な健康異常がもたらされてくるに違いない。

そういう意味で、知識偏重/情報過信の流れは、病気製造の流れでもあり、むしろ、総合的な生産性と言う意味では、低下をもたらしてしまうのではないか。

引き合いに出して申し訳ないが、松岡正剛の編集道は、その片務働きの指南法となっていたのではないか。だからこその、彼のその死に方だった。彼の編集学校は、武道場も併設すべきだった。

昔の言葉では「文武両道」で、それを体現していたサムライとは、この〈アスリ・メンタル・ハイ〉の実例だったのかも知れない。

そして「文武両道」とは、両方に秀でることを目的とするのではなく、両方に携わることが両道を高めることに通ずるとするものなのだ。

 

 


 

 この1ヶ月間のエクササイズ・ログ      

     (泳ぎには往復7kmのサイクリング付)

8月07日(水) Meeting

8月08日(木) はじり 1時間23分7秒 10km 76.7kg

8月09日(金) 水泳  17分13秒 600m 

8月10日(土) Cycling   12km

8月11日(日) はじり 1時間23分41秒 10km 76.5kg 

8月12日(月) Cycling   4km

8月13日(火) はじり 1時間23分23秒 10km 77.0kg

8月14日(水) なし(雨天)

8月15日(木) 水泳  17分1秒 600m

8月16日(金) はじり+歩き 42分11秒 5km 76.6kg  

8月17日(土) はじり 32分11秒 4km 76.6kg 

8月18日(日) なし

8月19日(月) はじり 1時間5分36秒 8km 76.0kg

8月20日(火) Cycling   16.5km

8月21日(水) 水泳  22分29秒 800m

8月22日(木) はじり 1時間23分19秒 10km 

8月23日(金) 水泳  28分58秒 1,000m               

8月24日(土) 外出  

8月25日(日) はじり 1時間6分36秒 8km 75.9kg 

8月26日(月) 水泳  5分40秒 200m

8月27日(火) はじり 1時間23分50秒 10km 75.2kg

8月28日(水) Cycling   4km

8月29日(木) はじり 1時間6分51秒 8km 75.2kg 

8月30日(金) 水泳  22分29秒 800m

8月31日(土) はじり 49分3秒 6km 76.2kg

9月1日(日)  歩き 5km         

9月2日(月)  はじり 1時間6分10秒 8km 76.2kg 

9月3日(火)  水泳  23分28秒 800m  

9月4日(水)    はじり 1時間6分6秒 8km 75.9kg

9月5日(木)  水泳  22分57秒 800m

9月6日(金)  はじり 1時間7分59秒 8km 75.0kg

 

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