若い人たちの修行を優先してもらいたいとリリーフ役に徹している私ですが、その役割は、キッチン内部では、なんとかうまく働いている感じです。
一方、レストランにはキッチンとフロアーと呼び分けられる二つの部門があり、フロアーとは、店にとってはそれが表舞台の接客部門のことです。そうした二つの部門にまたがる際、このリリーフの役割がもたらすある波紋がおこってきています。
というのは、このところ、そのフロアーで働く若い女子たちの様子に、ちょっと気になるところがあるのです。
自分でいうには躊躇がありますが、私のこなす皿洗いは、まあ並みではないでしょう。しかもそれを、寿司部門をこなしつつ、手の空いた隙間——むろん、忙しい時は寿司に集中します——でこなしています。以前は、専門の皿洗い担当がいた仕事です。
そうした私の働きに、ウエイトレスたちからの、主に二種の対照的な態度が見られています。
ひとつは、フィリピン人のウエイトレスの示す反応ですが、彼女は昼間は看護婦見習いをしているなかなか責任感のしっかりした子で、運んできた汚れ物を置いてゆく際、普段は無口なのにめずらしく、「元さんの仕事は早いですね」と一言声をかけてゆきました。
もう一人は、中国人のウエイトレスで、昼間は大学に通っています。その子が、私の洗い終わった「カテリー」と呼ばれる箸やナイフ・フォークを、いったん持ち去った後に再び持ち込んできて、汚れがよく落ちていないと苦情をいうのです。見たところそうでもないのですが、数限りない食器やカテリーを洗っていますから、中にはそういうこともあるでしょう。そこでその場では、再度、洗いなおしておきました。しかし、かごに入ったカテリー全部をまるまる返してくるのはどうも腑に落ちません。「こやつ、仕事をさぼるために、あらぬいちゃもんをつけているな」と勘繰ったところですが、よくよく考えてみると、やや違った側面が見えてきます。
あらゆる仕事がそうですが、物事には順序というものがあります。洗い場の仕事においてもしかりで、最終的には汚れた食器、カテリー、調理器具をすべて洗い終えることですが、ものによって、そのうちでも優先的に洗った方がよいものがあります。
むろん、最初のうちはその優先度は見えていなかったのですが、次第にそれが判ってきます。ことに、カテリー類は、その一部でも、先行して片付けてほしいとの要望をもらっていました。フロアーの手の空いた時に次の準備をしておけるよう、つまり、ウエイトレスたちを遊ばせないよう、接客マネジャーをしているオーナーの奥さんからの注文でした。
つまり、前者のフィリピン人のウエイトレスは、そうして前倒しされた仕事を受け入れている様子でなのですが、後者の中国人のウエイトレスは、そうした無駄を省いた労働の効率化を、なんとか避けようとしているようでした。
うがち過ぎる見方かもしれませんが、アジアに展開されている、それぞれのお国柄が反映されているような違いです。
キッチンとフロアーという二つの部門にまたがった際の、私のリリーフ役のもたらしたひとつの波紋です。
むろん、店の経営にとって、その効率化の重要性は明らかです。