今日は、居酒屋談というより会合談風で、団塊世代(B)を囲んで、その子供(X)、あるいは孫(Y)にあたる三世代が談話している。
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B 「Xさんはオーストラリアの永住ビザをとってもう3年、待遇のいい仕事にもついていて、日本の人たちから見たら“勝ち組”だね。」
X 「“勝ち敗け”なんて嫌いなんだけど、日本から、先に行った人の成功例みたいな目で見られているのは確かですね。そこで、留学エージェントなどから、その体験談などを話してくれと会合などに招かれることがあるのですが、自分の経験が後に続く人たちに役立つならばと思って、それには応じてます。」
Y 「自分はまだ来たばっかなんですが、もう、日本の落ち目ってひどいじゃないですか。給料は安いし円安で、海外とくにオーストラリアの賃金や労働条件を聞いたら、出てゆくしかないって感じでした。オーストラリアへ行けば、給料二倍、労働時間半分、もう、そんな話です。」
B 「君から見たら、Xさんなんかキラキラ輝いて見えるんだ。」
Y 「そりゃあもう、目の前の生きたターゲットですよ。Xさんって独身? だったらみついじゃうかも。自分のように、経歴ゼロで、英語もヘボい、ただ、やる気だけの人間にとって、ヘタすれば、人手不足の中で、便利に使われるだけ使われて、はいサヨナラでしょ。」
B 「たしかに、ワーホリの場合、延長はきくけど期限がある。果物もぎして、目いっぱいで3年かな。学生に切り替えて滞在だけは伸ばしてゆく手もあるけど、生活費に家賃それに授業料まで払って、たとえもぐりまでして稼いだとしても、並大抵なことではない。おまけに、何とか卒業まで漕ぎつけたとしても、それが永住ビザを保障するわけでもない。」
Y 「Bさんの時代って、もっとイージーだったんですか?」
B 「何と言っても大きな違いは、当時の日本の経済力。1980年半ばから90年代の頃は、日本はオーストラリアへのトップの投資国で輸入国。日本人は大のお客さんだった。もちろん、ワーホリだの学生は、それなりの努力はさせられたけど、その後、定着してゆく機会はたくさんあった。と言うより肝に据えておくべきことは、どこの国もそうだが、移民政策ってのは、国がやってる人材確保事業で国家ビジネス。だから、使える人間は入れるが、役立たずの人間は簡単にアウト。そういう意味で、たとえその使える人間にまでなれたとしても、それもその国家事業上のいわば“いいカモ”にはい上がれたということ。」
Y 「そうだとしても、自分みたいにほどんどゼロから、その使えるカモまでになれれば、それでもう御の字ですよ。それに他のアジアの国から、もっとハングリーなやつとか、金持ちのセガレたちが、わんさか入ってきている。」
X 「私から見ると、日本の国って、どうしてこんなに、若い人たちの将来に冷たいというか、無策というか、政治に何か根本的な欠陥があるように思う。いまの話でいえば、自国の若者を他国のいいカモとして輸出してるみたい。すっごく情けない話。オーストラリアでは、たとえば今は労働党政府で、基本的に、労働者の味方でしょ。日本にもそんな政府があったらって思う。」
Y 「自分らにしてみれば、正直いって、政治なんてダサくてどーでもいいって感じ。自分も投票したことはないし、第一、投票して得することあるんですか?。」
B 「確かにその気持ち、判らんでもないね。でもそれって、個人の問題じゃなく、Xさんの言うように政治の問題。例えば、オーストラリアの投票って義務制っての知ってた? だから、90パーセント以上の人、つまり事実上の全員が投票する。もちろんY君のような若者もね。だから、投票で世の中が変わるって実感、大なり小なり誰もが持ってる。だから、さっきのカモ話みたいな深刻な問題なら、たくさんの人がおかしいと思ってる。だから、気に入らない政治がつづけば、みんながNoって投票する。でも、日本の投票率なんて、30や40なんてのはざらで、60パーセントも行けばいいほう。だから、何も変わらず、政治に躍動感が出てこない。そもそも、高い税金払って買ってる投票券なんだから、それを使わないでおくなんて、何てバカな事するのって話。」
Y 「そうか、税金ってそういうことなんだ。それで90パーセント以上が投票するってことは、自分らみたいな投票しなかった40、50パーセントの人の言い分が通るかもってことだよね。そんなこと、考えたこともなかった。」
X 「でも、日本でいきなり義務制にするのは無理ね。間違いなく、今の国会は通らない。しかし、もっとたくさんの若者が投票するってことは可能だよね。それがまず先。」