私〔ジェニファー・ヒューイット記者〕は今、「ブーメラン世代」〔訳注〕が意味することを実によく認識しはじめている。シドニーとメルボルンの急激な住宅価格の上昇に関する私の経験は、深く個人的なものだった。だから、私は一般的ケースに従って、それに安心すべきとも警戒すべきとも、何とも言えない。しかしそれは、なぜターンブル政権が大きな問題を抱えているのかは明らかにしており、有権者の感覚に経済的締め付けを訴えかけうる余地はほとんどない。【オーストラリアン・ファイナンシャル・リビュー紙 2017年8月2日記事の本サイトによる邦訳】
〔訳注〕親の家計から一度は自立したが、再びそこに舞い戻った子供世代のこと。
だが、野党労働党も、頼るべき十分な対案を持てているわけではない。それでも、こうした困難な時代にあっては、野党でいる有利さにはなっている。ことに、若い世代が、自分たちの状況が経済的に行き詰まりであると判断した場合、「不平等」と戦う変化の公約はより頼もしくひびきうる。
警戒的な読者は、私が最近、団塊世代の流れに加ったこと――持ち家をダウンサイズしてアパート暮らし移った――を気に留めるかも知れない。私のその行方の定まらぬ家族向け住宅には時間だけはあった。だがそれも、何年もほったらかしの結果、老朽化した家に改修の必要が迫っていた。
雨が降ると、いつ次の雨漏りが始まるのか、大いに頭痛の種となっていた。それに、20代の子供たちは、ほとんどみな家を出ていた。 一番下の息子も、母親といっしょの狭い住宅より、楽しそうに思える仲間と一緒の住処に引っ越すことを早々と決めていた。
しかし数ヶ月後、彼の仲間は突然、その父親のアパートに舞い戻ってしまった。高価でいかにも狭いアパートを見て回った数週間後、お金の節約のため、一時的にでもかつての家に戻るのも、そうは悪い決断でないと決めたのは、その息子だった。
強気な住宅市場
同じ頃、私の成人した娘とそのパートナーは、それから数年暮らすこととなる香港からシドニーに戻った際、家を買う余裕がなくなっているだろうことが心配だった。
シドニーの不動産市場が高騰抑制対策にも執拗に抵抗していることを考えると、彼らは今のうちに購入しておく方が経済的に意味があると考えた。少なくともその賃貸収入は、初めての住宅ローンの返済に役立つ可能性があった。このように考える人たちも、オンラインで物件をさかんに検索しているのである。
こうした状況は、週末の朝の気分を害するに十分である。もちろん、シドニーの住宅の大幅な価格上昇は、その結果でもあることは理解できる。しかし、今日、シドニーで1960年代の赤レンガ造りの質素な1寝室アパートを買うために幾ら必要かを見てみても、発見できるものは何もない。たいした物件市場状況である。
これが、銀行が若いカップルならだれにも――彼らなら元金も利子も返済する余裕がある(利子のみはだめ)――優先してお金を貸す理由なのだろう。家の所有などあきらめ、アボカドのサンドイッチの誘惑も忘れよう。賃金の伸びも望みうすで、巨額のローンをかかえざるをえない時、ベジマイトのサンドイッチさえも控えるべきかも。
最新の統計数字が示すように、2002年以降、住宅購入のためのローン債務額が倍増する一方、40歳未満の人の住宅所有が急激に減少していることは不思議ではない。
メルボルン大の研究所による2017年の「家計所得および労働力動態調査」によれば、18〜39歳のオーストラリア人のうち、2002年では36%が自宅を所有していたが、2014年にはそれが25%に落ちている。
これらは全国的な統計数字であり、シドニーとメルボルンのこの数年間の高騰を反映しておらず、それによる変化は2014年以降に、いっそう劇的となっていることが予想される。
同じことは、オーストラリアの大都市のこの2つの市場であっても、そこに飛び込むことができた少数派の借金水準についても同様である。
当然のことながら、これはすべて、賃金の伸びが停滞していなかった時代では、そのやりくりはより簡単だった。ただし、会社役員レベルは停滞知らずであった。
これは、なぜ企業界が企業減税キャンペーンにさほど熱心ではなかったことを説明している。
一般大衆の胸中でこれは、自分たちは不安定にさらされて放置されている一方、トップの人たちは過度に裕福であるといった、ひとつの顕著なイメージに結合されている。
野党労働党リーダーのビル・ショーテンが意識しているように、ここに、そうしたメッセージが有権者の共鳴をひきだせるとの読みがある。
資産インフレ
上記調査はまた、中間値世帯の年間名目可処分所得――その上下とも世帯人数は同じ――が、2009年よりも2014年が低くなっていることを示している。これは2001年から2009年にかけてのジョン・ハワード時代の経済成長が思い出さされる、もう一つの理由となる。
上記調査の別の統計数字を見ると、平均または中間値所得は、鉱業開発ブームによって膨らんだ高額給与の後退を主因として、2014年にピークに達した後、昨年にやや下がっている程度である。
これは、同調査のジニ係数――0が完全平等状態、1が完全な不平等状態を示す――が、収入の全体の不平等が、実際にはあまり変化していないことにも表れている。
この限りでは、今世紀中、ジニ係数は0.3をわずか上下するにとどまっている。これは、オーストラリアの大きく累進的税制と福祉制度のおかげである。
しかし、多くの人たちは、そのように感じていない。オーストラリアでは、主に住宅価格に発生している世界的な資産インフレが、資産を持っている人と、持っていない人との間の格差を広げている。
そうした資産格差拡大からまぬがれているのは団塊世代で、彼らは金利が比較的高くても価格が比較的安い時代に家を購入できた。だがその後世代の多くは、60代まで健康に働くことを、計画中か、不可避にさせている。
こうした資産状況は、団塊世代が10年以上前より豊かさを感じられることを意味してはいる。
だがそれも、少なくとも自分の子供たちが、親の支援で住宅市場に踏み出せていれるまで、あるいは、彼らが再度親の家に戻るにことができている時まである。