豪インフラ事業、計8.8兆円のブーム状態

インフラストラクチャーのブームは、かつての鉱業ブームより長く続きそうである。エンジニア職では何百ものプロジェクトが求人をふくれさせ、全国で1千億ドル(約8.8兆円)を上回る総計事業費(文末グラフ参照)がエンジニアリングと建設の賃金を押し上げると予測されている。

業界団体エンジニアズ・オーストラリア(EA)のエグゼクティブ・ゼネラルマネジャー、ブレント・ジャクソンは、「雇用データは申し分なく明快だ。プロジェクトが非常に多くまさに沸騰状態で、このブームが十分長く続くだろうことは間違いないと見ている」と語る。

エンジニアリングと建設は、需要増による給料上昇が続いている数少ない業種で、熟練エンジニアはプロジェクト間を移動し、その度に自分のサラリーを引き上げている。

EAによると、6月には全国で3,579件のエンジニアリング職の求人があり、前年同月比32パーセント増加した。その職の大半はNSW州とビクトリア州で発生しており、これらの州では、数十億ドル(数兆円)にのぼる道路や鉄道の新プロジェクトが進行している。

請負会社ジョン・ホーランドのジョー・バールCEOは、「東海岸でこれまでにないインフラ事業が生まれていることは間違いない」と語る。

「この状況にあって、需要に応えるために月に約100人を雇用している。シドニー・メトロ、メルボルン・トンネル、ウェスト・ゲート・トンネルのような主要プロジェクトが次々と続いている」。

ブリスベンのクロスリバー路線、新シドニー空港、大陸内部鉄道、NSWの都市間鉄道、ビクトリアの大量輸送近郊鉄道など、20億ドル(1.8兆円)以上の主要プロジェクトが建設または設計中である。

また、数十もの港湾、道路、住宅、刑務所、学校、水道、病院のプロジェクトも進行中で、しめて1千億ドル(約8.8兆円)を超える事業計画となっている。

鉱業ブームの時は、エンジニアや設計者が早期からプロジェクトに取り掛かる必要があり、それがいざ実行の段階になるとの鉱業需要自体が萎えて〔プロジェクトを解消させて〕しまった。今回はそれとは違って、鉄道プロジェクトにはエンジニアが常に取り組む必要がある、とEAのジャクソンは語る。

「新プロジェクトの事前段階でエンジニアの主要業務があり、その運営段階になって劇的に減少した鉱業プロジェクトとは異なり、鉄道プロジェクトでは全期間を通じてエンジニアの必要性がより高い性質にある。」

EAは賃金動向を調査していないが、エンジニアリング求人数の上昇はエンジニアリングおよび建設の給与の上昇と密接に関連していると彼は指摘する。

連邦準備銀行は、8月に建設関連のエンジニアリング職は「賃金上昇の兆し」を経験している職種であると表明した。

NSW州で過去2年間、各プロジェクトが数百人を雇用するため、エンジニアリング職は50パーセント増加した。

シドニーの西コネックス高速道路には現在、現場に3千人以上の労働者が従事しており、2023年に完成するまでには述べ1万人の労働者が雇用される予定である。

エンジニアリング求人は、全国的にも増加している。この 6月までの6カ月間で、南オーストラリア州では求人数が11パーセント上昇した。 タスマニアでは22パーセント。 ノーザン・テリトリーでは21パーセント、首都特別州では6パーセント、 クイーンズランド州で9パーセント、西オーストラリア州では21パーセントとなっている。

 

シドニーで働く喜び

エンジニアリング・コンサルタントのGHD社〔訳注〕のアシュリー・ライトCEOは、同社のオーストラリア事業は2016年から17年にかけて約300人(10%)増えたと述べている。

〔訳注〕GHD社は、1928年オーストラリア、メルボルンで設立された建設コンサルタント企業で、今日では世界135カ国で営業し、総勢8,500名を雇用。

 

GHDの土木技術者であるマリツァ・カコピエロスは、同社にほぼ5年間勤務してきており、学校や水処理施設の建設にたずさわってきた。彼女は、世界の中で最も「好景気」市場のひとつで働いていることを楽しんでいると話す。

 

GHD社の土木技術者であるマリツァ・カコピエロスは、ブームのシドニーで働くのが好きである。 彼女の会社はシドニーのライトレールプロジェクトの設計を行った。

「シドニーの未来を造ることに役立つのは嬉しい」とマリツァは言う。「私の家族は、交通機関などが立ち往生した時はいつも、私のように道路を直してよと叫びます。でも私は道路技師ではないのですよ。」

シドニーの中心地区とのライトレール・プロジェクトの設計をしてきたGHD社は、インフラ部門から離れたりキャリアを中断した幅広い専門家を対象とした「キャリアリスタート」プログラムを実施して、家族のように人々の面倒を見ようとしている。

このプログラムは現在、350名の応募者を集めており、パース、シドニー、メルボルンで試験実施されている。うち12名を10週間の補充職に採用し、その後、常用職に転換することも可能である。

インフラ開発にあたるレンドリース社は、採用者数についてコメントすることを拒否したが、同社はプロジェクト・エンジニア、現場管理者、プランナー、測量士、電気技術者など数十人ものエンジニアリング関連の雇用を募集している。

建設業界を担当するアナリストたちはすでに、賃金上昇によって企業の利益率が損なわれると警告し始めている。

鉱業ブームの際は、職員を確保するために高い賃金を支払わなければならなかったため、最大20パーセントの余剰費用がかかった。 2008年9月のピーク時には、エンジニアには1万3千件以上の求人があった。

EAのジャクソンは、企業はコスト過剰を避けるために長期的な計画を立てる必要があると述べる。

「5年前、エンジニアリング市場が落ち込んだ時、多くの雇用主の反応は労働力の削減だった。それが今では同じ雇用主が5年以上の経験者を求めて争っている状況だ。 残念なことだが、彼らは人を得るために必要以上を支払っている。」

 

プロジェクト・マネージャーの年俸1300~1700万円

ジョン・ホーランド社のバールCEOによると、人々は給与を上げようと「プロジェクト間を渡り歩いている」が、同社は一方、「働くのに最適な場所」であることを用意することで従業員を繋ぎとめようとしている。

「もちろん、現在の市場では給料が上がっており、競争の激しい市場であることを認識してそれに応じて支払っているが、私たちにとって重要なことは、魅力的な雇用条件の提示であって、単なる良い給料の仕事の提供ではない」と 彼は言う。

2017年のヘイズ給与調査によれば、エンジニアリング給与はNSWとクイーンズランドで最も高く、プロジェクト・マネージャーは年間19万ドル(1千7百万円)の収入が得られる。ビクトリア州では16万5千ドル(1千5百万円)、パースでは15万ドル(1千3百万円)の給与である。

コンサルティング会社であるコンサルト・オーストラリア(CA)のミーガン・モットーCEOは、オーストラリアはスキル開発の長期的な戦略的アプローチを開発することが「決定的」であると述べた。

彼女は、「公的インフラと建設投資ブームは供給を超えて需要を伸ばした」と述べ、オーストラリアは海外からのビザや募集に関する議論を「脱政治化」し、さらに、STEM教育と男女平等を重視して女性がエンジニアになる機会を奨励すべきだと言う。

CAの見積もりによると、NSW州のエンジニアリング・コンサルティング料金は2015-16年の25.6億ドル(2.2兆円)から2019-20年の29.1億ドル(2兆6千億円)に増加し、ビクトリア州では15億1千万ドル(1兆3千億円)から17.3億ドル(1兆5千億円)に増加する見込みである。

 

 

 

【この記事は、11 September 2017付け,  Australian Financial Review紙の記事「Engineering jobs boom on $100b infrastructure pipeline」の本サイトによる翻訳 】

 

 

 

 

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