加熱する「オフ・ザ・プラン」購入の危険度

以下は、“Many dangers in off-the-plan rush”と題された Australian Financial Review 紙(2014年4月17日付)の記事の翻訳です。
 

4月12日の土曜日、シドニー中心街、バサースト・ストリートに予定されている6.9億ドル(655億円)規模の市内最高層アパート・プロジェクトの現場に、何百人もの購入希望者が列をなした。そして、売出しから一時間以内で、上海のグリーンランド・グループが市場に放出した120戸( 2017年完成予定) のうち90戸が売れた。

記録的な建築承認総数を示し、売行きが急速に伸びているオフ・ザ・プラン〔未完成の物件を図面段階で契約〕販売方式でのアパート・プロジェクトは、シドニーだけで起こっているわけではない。すでにメルボルンでの供給レベルは4年前にピークに達して以来も伸び続けており、ブリスベンやキャンベラでも、新しいアパートの建設が増加している。

未完成の段階で物件を購入するのは、試し履きをしないで靴を買うようなものである。そうでありながら、自宅購入者や投資家は、まだ建てられていないアパートに、5,000万円ないしそれ以上の金を支払おうとしている。

記録的な低金利、海外からの投資(外国人は新築物件のみの購入が可能)、そして購入余裕度の点で加速しているこのブームは、 都市の風景と、人々の生活や投資のスタイルを変えていっている。

不動産助言者や投資専門家は、こうしたブームに乗ろうとしている人たちに、同様な高層アパートが競合して出現した場合を考え、供給レベル、立地、潜在的なキャピタルゲインに、充分な注意を払うように忠告している。 

供給過剰への懸念や潜在的な金利上昇は、ブームを冷やす恐れがある。しかし今のところ、開発業者や不動産業者が資金を投下し、購入者は、次のアパート・ブームが起こる地域はどこかと物色している。

投資グループ「プロパティ・クラブ」全国代表のトロイ・グナセケラは、 購入者が求めるべき地区とは、「購入と賃貸の豊富な需要がありながら物件供給が少なく、そのために物件を求める競争と値上がりが生じる」ところであると言う。

 

予想されるさらなる伸び

昨年の住宅価格の上昇は、アパート市場へと波及し、今後、いっそうの成長がみこまれている。

不動産物件調査会社レジデックス創業者のジョン・エドワーズは、住宅価格は全体に今年も上昇し続けるが、アパートが戸建住宅よりも低いリターンしかもたらさにことが予想される、と警告している。 そして彼は、「今後12ヶ月の間に不動産を購入しようとしている人は誰でも、成長パターンを認識する必要がある。つまり、 現在はこれまで以上に、市場について確かな研究を行い、データと洞察力で自分の決定をバックアップすることが重要である」と付け加える。

最高のリターンは、都市中心部の地区で予想され、今後5年間で、約4パーセントないし8パーセントと見込まれている。しかし、各都市の市場はそれぞれ異なるサイクル段階にあり、様々な成長の可能性を示している。

コンサルタントのディープエンドサービスとランズバリーの共同調査が対象にしたシドニー中心地区のほぼ五千戸のアパートのうち、わずか8 %が建設に着手されているだけで、今後数年間でいかに都市景観が変化するかが予想される。

シドニーでアパート建設が最も増加しているのは、中心地区と空港の間の帯状地帯で、ことにマスコット、ゼットランド、ウォータールーは、格上げ化が勢いをもち、かっての工業用地が住宅のプロジェクト用地に変貌していっている。

メルボルンでは、中国、マレーシア、シンガポールの海外開発業者が、市中心地区 、サウスバンク、そしてドックの周辺で、オーストラリアで最も高層の住宅タワーを建設している。一方、地元の開発業者は、中心部の外郭環状圏の地区に集中している。

メルボルン中心部の周辺で増加中のアパート数は、レンタル利回りを下げ、空室率が高くなるなど、供給過剰の懸念を生んでいる。しかし、市の中心部から5 〜10キロの外郭環状圏の地区では、まだ全国で最高のリターンを提供しており、レジデックスのエドワーズは、ことにエルウッド、セントキルダ、リッチモンドの地区をあげている。

彼は、全市にわたって市場は軟化するとした過去の予測に対し、「メルボルンは過去の予測にそむいている」と語る。

「私の感触では、物件の供給過剰、特にアパートのそれは確かだが、需要は現在、 3つの主要な要因によって下支えされている。ひとつは、不動産開発業者がうまく自分たちのアパート開発を管理している。第二に、海外からの買手が、新開発のアパート販売を下支えしている。第三に、オークションでの契約率の高さといった要因が総体的な自信を強めている」とエドワーズは述べている。

 

次はブリスベンか

不動産の専門家は、値上りや投資の増加がおこる次の都市としてブリスベンをあげる。金融コンサルタント、アビエイトの社長ニール・スモイは、新たなインフラ・プロジェクト、予想される経済成長そして住宅の供給不足が、ブリスベンを投資家にとって有利な市場にするだろうと言う。 だが彼は、「ホットスポット」――市場で広く注目され、価格が高騰している――を避けるという。

「その代わりに我々は、長期的にわたって注目外とされてきた市場に焦点を当てている。多くの投資家がシドニーに引き付けられることを理解はするが、我々は、現在のような状況でシドニーの物件に投資することはお勧めできない」とスモイは付け加えて言う。

首都間の価格を見ても、より多くの投資家が、なぜブリスベンでのオフ・ザ・プラン購入を考えているか、その理由がわかる。アパートの中央値価格は、メルボルンの44.8万ドル(4,256万円)やシドニーの55.25万ドル(5,248万円)と比較して、 ブリスベンでは35.9万ドル(3,410万円)である。

グリーンランド・グループによるシドニーの最新の開発事業の買手は、38〜66平方メートルの ワンベッドルームのアパートに59.5万ドル(5,652万円)以上を支払った。105平方メートルから144平方メートルの間の広さのスリーベッドルームは217万ドル(2億6百万円)以上であった。

不動産価格上昇の可能性が買い手を引き付けている一方、エコノミストは金利が早い場合、今年9月での上昇を予測している。ほとんどのエコノミストが、2014/15年の会計年度の終わりまでに、少なくとも一度の増加があるだろうと見ている。

オフ・ザ・プランで購入する際の金利上昇は、購入および決済の会計処理をその前に済ますことを必要とさせ、それが一つの理由となって長期的な決済を危険にさらす、とローン仲介業のマリオス・ロッカは言う。

「オフ・ザ・プラン購入へのマイナスの影響の主たるものは、それが完成するまで物件の評価額が不明であることである」と彼は説明する。

これは賃貸を困難にします。例えば、物件価格50万ドル(4,750万円)のマンションの場合、買手は、10パーセントの保証金と価格の90パーセント、45万ドル(4,275万円)の住宅ローンを必要とする。

アパート・プロジェクトは通常、 完工までに18ヶ月から3年間ほどを要する。その間に、市場価格が下がり、最終的な評価が45万ドルとなった場合、銀行による90 %の住宅ローンは40.5万ドル(3,847万円)になる。つまり、元の購入価格とローン総額の差の95,000ドル(902万円)の不足は買手の負担となる。

また別の問題は、買手には、銀行から借りられる額が、「契約価格か評価額のいずれか低い方」となっていて、つねに明確でないことだ、とロッカは言う。 「追加費用のための準備をすること。評価額が低下した場合、住宅ローンの保険は、印紙税の節約を上回って、ローンのコストになる。」

 

事前購入

今日の価格で 二年後完成の不動産を事前に購入することには、賛否両論がある。

あるオフ・ザ・プラン購入者は、購入と決済の間の値上がりで恩恵をえるが、市場に多くの供給があったり、経済全体の変動の潜在性がます場合、キャピタルゲインを頼りにするのは危険である。

ゴールドコーストの市場はいまだ世界金融危機後のマンション供給過剰と市場の低迷の後遺症に苦しんでいる。オフ・ザ・プラン市場が暴落する前に契約を結んたアパート購入者は、購入価格よりも低い物件価格に重くのしかかられている。その結果は、2010年末から2012年に至るまでに市場に出回った抵当権者による販売で、その後始末はいまだに続いている。

供給過剰の地区での購入は、供給が賃貸需要を上回った場合に問題となる。リターンが落ちたり、最悪の場合、物件が空いたままになってしまう。供給過剰はまた、所有者が自分のアパートを売りに出すのも困難にする。

中古住宅市場の高騰は、初めての自宅購入者にとって、一戸建住宅は手の届かぬものとなり、都市中心の近くに住む願望を引き上げてきた。同時に、新築物件への州政府印紙税が引き下げられた結果、オフ・ザ・プランのアパートがより魅力的なり、これまで以上にオフ・ザ・プランの買手を増加させている。

海外からの投資も、オーストラリアの資産がお金を託しておくための安全な場所として、国際的な信頼を獲得している。クレジット・スイス銀行は、中国の買手は、過去7年間でオーストラリアの240億ドル(2.28兆円)相当の住宅を得ており、今後の7年間でさらに440億ドル(4.18兆円)を費やすだろうという。

オーストラリアの住宅不足は十分調査されたものだが、今年2月までに12ヶ月の間に、ほぼ8万戸のマンションの新規建築が承認された。特定地区へのアパート建設の集中は、短・長期的に価格やリターンの低下をもたらすものとなる。

熟達した開発業者は、供給の低い地区に注目し、開発をすすめている。メルボルンの開発業者ティム・ガーナーは、低価格と利回りのよさを実現するために北へと向かい、ブリスベンのフォーティテュード・ヴァリーにおける6百万ドル(5.7億円)のプロジェクトの計画を申請した。

 

適正な契約条件

メルボルンの開発業者のポール·フリードマンも、シドニーの西部近郊区のアースキンビル・プロジェクトに着手する。フリードマンは、この動きは 、彼が20歳の時に始めた会社、フリッドコープのビジネス手腕の鋭さの表れであると述べる。フリードマンはまだメルボルンでも事業を行っているが、市中心周辺地区の供給過剰を避け、郊外の小規模なプロジェクトに焦点を当てている。

ローン仲介業のロッカは「 (完成までの)2年以内に、他の開発業者が同様あるいはもっとよいオフ・ザ・プランを販売し、あなたの買おうとしている物件の価値を減らすかもしれない」、と述べる。

「さらに、その開発が完成に近づいた際、開発業者は、完売するため、そのアパート・プロジェクトのいくつかの物件の値引きを行い、さらにあなたの物件の価値を減少させる可能性もある。」

これが、適正な住宅ローン条件と立地の獲得が重要である理由である。 レジデックスのエドワーズは、供給より需要が先行して増加する可能性が高い新興分野を見つけることが鍵、という。 「いったんは荒廃地とみなされ、望ましくないとされた多くの郊外地区が、その後、不動産投資のホットスポットに変身している」と彼は付け加えた。 「手がかりはは、その地区に開店したカフェや小売業者、そして、安定した所得をもつ若い住民の流入である。」

エドワーズは、資本成長の予測パターンを見ると、シドニーとメルボルンの成長率は、来る6ヶ月間に減速すると予想されており、他の都市ではそれは来年に予想されるという。

しかし、今のところ、すべての州首都の中心円環部では機会が熟しつつあるとエドワーズは言う。 「少なくとも中心円環領域は、郊外地区に比べて手の届くクラスに分類されることが多いが、データは、精通した投資家にとっては、まだ適切な郊外にその機会があることを示している。」

 

チェックすべき項目

初めての自宅購入者やオフ・ザ・プランを考慮中の投資家にとって、その決定の判断は容易ではない。不動産投資クラブの全国代表のトロイ・グナセケラは、いくつかの要点をあげている。

■自分の住む地域に投資するとの考え方は捨てること。その考えは、資本の増加やレンタル需要が発生している地域で購入する機会を制限することとなる。成長は都市部ばかりでなく地方でも発生することを認識しておくべきである。成功する投資には、ビジネス感覚を必要とする。

■新たなインフラが構築される地域をターゲットにせよ。新しい道路、高速道路や公共交通機関が構築される所に近い地区は、借家人にとってより魅力的であり、人口の拡大が期待されるしるしとなる。

■商業や社会的投資が行われているかを確かめる。将来に新しいショッピングセンター、病院、学校が建設される領域を見つけること。これはまた、新しいカフェや商店が開店しているという格上げ地区にも適用される。

■より住宅供給が発生している地区より需要の増加している地区へ投資せよ。住宅価格の上昇と低い空室率が発生し始めた地区をさがせ。低い空室率とは、投資不動産に入居するテナントをすぐに得やすいことを意味する。

■成長の周囲地区に投資せよ。 もし急成長地域への投資の機会を逃した場合でも、近隣の地区を検討せよ。多くの場合、周囲の地区はそのうちにホットスポットに変化しやすい。おそらく、より少ない投資で、既存のホットスポットの成功に便乗することが可能。

■投資の専門家や同等な投資家と話し合う。

 

賛否両論

新築住宅の購入か、それとも中古住宅の購入か?これは、住宅購入を考えている人にとっては最大の難問である。

買手側の不動産業者は、多くの場合、すでに確立したデータがあるために、中古住宅の購入をすすめる。しかし、多くの買手は、新築住宅を購入することで、安心を買いたいと感じる。

「私は何も心配する必要はなかった」、 シドニーのゼットランドに3ベッドルームの新築アパートを買った28歳の会計士、ジョン・カズンズはこう述べている。 「私はその開発業者やそれが良い物件であると知っていたので、それに頼ることができた」。彼は決済する前のある投資家からその物件を買った。彼はこれを後悔はしていない。

「私はその地区での価格は上昇するだけだと自信をもっていた。しかも、住むのに快適な場所を求めていたし、前に住んだことのないどこかに引っ越すのは素敵なことだった」、と彼は付け加えた。

カズンズにとって、その新築アパートを購入することは、犠牲を払うことなく、人気の高い地区でのシドニーの住宅市場に参入することを意味した。

「同じ地区で同じサイズの中古物件は、はるかに高価で、住みごごちもさほど良くはなさそうだった。」

メルボルンの買手側不動産業、リチャード・ウェイクリンは 、古いものより新しいアパートを購入する方が簡単であることは認めるが、それでもそれに反してこう述べる。

「新築物件ではすべての問題点は解決ずみであると期待されているが、我々はそうとは考えず、むしろ二度目がめぐってきた物件を買いたい」と彼は言う。 「人々は、それを上手に計画されたプロジェクトと考えがちだが、それは危険なことがだ。」

ウェイクリンは、中古物件はまた個性があり、供給数も多くない。だが、200戸も抱える大規模な新築アパートの場合、もし売る時が来たとき、特徴ある魅力を打ち出しにくい、と言う。

   

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