「マインドフルネス認知療法」は万能か

当初、症状を改善し苦しみの緩和を主とした療法「マインドフルネス」は、いまや、学校、大学、軍隊、企業、診療所を通じて、数十億ドル規模の事業となっている。【2017年3月7日付AFR紙記事の翻訳】

〔訳注〕「マインドフルネス認知療法」は、マインドフルネス(気づき)を基礎に置いた心理療法で、第3世代の認知療法のひとつ。心に浮かぶ思考や感情に従ったり価値判断をするのではなく、ただ思考が湧いたことを一歩離れて観察するというマインドフルネスの技法を取り入れ、否定的な考え、行動を繰り返(自動操縦)さないようにすることで、うつ病の再発を防ぐことを目指す。(ウィキペディアより)

この瞑想的な治療法は商品化され、現在は「自然な」薬として市場に提供されている。しかし、ビタミンのように、その誇大宣伝は科学の範囲を越えて広がっている。

この治療法は規制されておらず、その一般的見解は、たとえ効用はないとしても少なくとも有害ではなく、精緻性を欠いている、というものである。また、有害との症例報告(複数)はある。

仏教思想に由来するマインドフルネスは、人々が現在の瞬間に注意を集中することを可能とする。

この療法は、ストレス、不安、うつ病に対処する自然療法として販売されており、熱心に取り組めば、疾病の経過を変えることができると主張する者もいる。

しかし、現在、精緻に設定されたオーストラリアの研究が、顕微鏡の下でそれを調べている。この研究には、進行性癌に罹患していほぼ200人の男性を対象としている。彼らは前立腺癌を患っており、それが進行して身体的、心理的に多くの症状を現している。

グリフィス大学とクイーンズランド州ガン協会の研究では、同療法がこれらの患者を助けなかったことを示した。その研究報告はまた、それが有害である可能性があると推測している。

 

オープンに気付く

マインドフルネス認知療法は、患者が経験していることに、どのように反応しているかを観察しながら、オープンに気付くことによる。そのねらいは、患者の反応をより前向きで、断定的でないようにさせ、そうした経験に関して平穏な状態に到達できるようにすることである。

しかし、自分の思考や経験に一人で対処していると、無害に見えるかもしれないものの、進行性癌に罹患している人にとっては、認識が対処の準備を越えてまで高ずる可能性がある。

このクイーンズランドの研究は、高く評価されている臨床腫瘍学会ジャーナルに掲載され、臨床治療におけるナイーブな現実認識の危険性を強調している。

その研究者らは、医師がその有効性を評価するにあたり、ここのところ、証拠ではなく直感を使用して、商業的利益と素朴な現実性を目指すようになってきていると指摘している。

グリフィス大のメンジーズ健康研究所のスザンヌ・チェンバース教授は、「あたかも、マインドフルネス療法がすべての病気に対する解答として、大きな熱意と限られた証拠をもって、それを重視し使用しているかのようだ」と言う。

そして心理的な苦痛が進行した場合、「何にでも効く療法」では対処し切れなくなくなっていると言う。

マインドフルネス療法は、うつ病の再発や乳がんの女性にとって有益であることが示されているが、「全面的に推奨される前に、いっそうの慎重さと厳格な評価が必要である」という。

 

「大変な」経験

「もし、あなたの中で何が起こっているのかに気付きつつあるということは、自分がいる状況に自分の視野を広げていることです。これに長く焦点を当て続けることは大変なことです」。

「私たちは、自分の内的経験について断定的でないことは、進行した前立腺癌の男性に心理的利益をもたらすことができることは解っていますが、彼らの経験に逆効果を観察することは有効ではないようです。気付いていることは、すべての状況で有用とは限りません。」

上記の研究では、男性患者を無作為に2つのグループに分けた。 第1グループは、通常の治療を受け、セルフヘルプ資料や無料サポートサービスにアクセスするための情報を得ていた。

第2のグループは、毎週、テレヘルスを通じて計8回のグループ療法セッションを受け、同僚のサポート、ワークブック、毎日の心の瞑想の自宅実施が行われた。

対象患者は9カ月間追跡され、2つのグループの間に効用の差は見られなかった。

南クイーンズランド州大学のサイコ・オンコロジー〔精神腫瘍〕学会議長であり社会科学教授のジェフ・ダンは、マインドフルネス治療法が消費者の需要を満たすための商品に変わったことを懸念している。

彼はそれが広範な生命科学から切り離され、市場の傾向に見合った商品とされていると言う。それは現在、限られた証拠ながら、様々な方法で社会の多くの部分に配給されている。

ダン教授は、「各症状に適した使用頻度は? また、どのような品質管理がされているのか?」と問うている。

 

慎重な取り組みを

ダン教授は、ビジネス幹部がマインドフルネス療法の思い切った撤退を行って効用を向上させることも一法だが、それと、生命を脅かす疾患を持つ脆弱な人々に「気付き」が届けられるのとはまったく別のことだと言う。

「幸福に貢献できるかどうかを慎重に考える必要がある」と教授は語る。

脆弱な人々が新しい治療プロセスに入ったとき、常に「希望」をもっている。 それが実際に助けとならなければ、それは彼らを裏切ることになる。

マインドフルネス療法は時間を要する療法で、実績の証明できることを実施して、時間と人材をよりよく使ったほうがよい。

また、ホーリスティックな治療法として始まったことが、数時間後に「すべてを治す」商品に変わりうるのかという疑問もある。

心理学者のミゲル・ファリアスとキャサリン・ウィクホルムは、彼らの本『仏陀の薬』で、瞑想の科学と個人の変化の妄想を調べている。45年間の科学文献を調べて、彼らは瞑想の仕組み、恩恵を受けやすい人、恩恵を受けにくい人、影響の持続時間が分からないことに、驚きをもって気付いている。

昨年、マインドフルネス療法に基づいた治療分野の指導者グループは、これを「まだ発生期であり、非常に有望」と表現した。

ケンブリッジ大学出版のジャーナル『心理医学』の論説では、過去20年間に爆発的に関心が高まっており、いくつかの分野で証拠が構築されていると言われているが、 有望であるかどうかはまだ未踏の状態である、としている。

NSW大学補助准教授ジル・マーゴ

 

【記事出所】7 March 2017, Australian Financial Review, Mindfulness under the microscope – it doesn’t work for everyone.

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