それはビシャリとした法判断だった。シドニーの名門校キングス・スクールの卒業生、ロバート・ウィルコックスは、誰もがうらやむ人生をスタートし、楽しんできたが、祖父の資産を相続できるとの彼の期待は、彼の母親との間で紛争の種となった。
今年(2014年)一月、NSW州高等裁の判事マイケル・ペンブロークは、「予期される彼への遺産相続の多くと同じく、彼は、兄弟と共に祖父の遺産を相続できるとの軽率な見込みにかかわらず、これを得ない」と述べる判決を下した。
裕福な家族の多くの子供たちのように、ウィルコックスは、額に汗して働くことのない優雅な生活を期待していた。
裕福な家族はその子供たちの意欲を奪いとって無気力にし、家族の資産を危険にさらす、と助言者たちはいう。
ウィルコックス〈46)とその兄弟は、祖父が母親に残した550万ドル(約5億円)の不動産の分割を求めて訴訟を起こした。
そうしたウィルコックスの「不健全な願望」、つまり、自らの「意欲を削ぎ」家族を引き裂く法廷闘争に、ペンブローク判事は、そう冷水をあびせた。
本件は、ペンブローク判事の所見のみならず、自分の母親の経済的不安定をかえりみずに訴訟にさらすというウィルコックスの厚顔という点でも、法曹界に光明を投げかけるものとなった。
また本件は、両親が、自分たちの資産の相続をめぐって、その子供を無気力にすることなくどれほどの援助を与えるべきかについて、その決定をめぐる微妙な兼ね合いに、明確な視点を与えた。
T2〔とのブランド名の〕ブティーク茶店チェーンの創設者マリアン・シーラーは、今年、多くの事業家が面する懸案に名答を与えた。
彼女は、自分の「特別な」生き方にもかかわらず、自分の働きの成功が家族をまとめ、かつ、三人の子供たちには、熱心に働く価値を植え付けようと努めてきた、と本紙週末版に語った。彼女はいつも夫から、「君は子供たちにかまいすぎる」と言われてきたという。
しかし、子供たちにどこまで寛大であるべきか、思慮深くなるべき理由はたくさんあると語る。
ロスチャイルド家やロックフェラー家のような家族は、ただ資産を築いただけでなく、それをどのようにして永続させてきたかをもって名声を築いてきた。だがその一方、多くの家族が、その創設時の裕福から世代をへて、よくある凡庸と貧しさへと滑り落ちてきた。
子供は、助けなければ助けないほど自主的になる、との説がある。『The Millionaire Next Door』の著者、トーマス・スタンレーとウィリアム・ダンコウは、成人となった子供への継続的な経済的援助は、彼らを預金や投資より浪費へと導く、との発見をしている。なかでも、もっとも注目される発見は、アメリカの億万長者の資産の大半は、その裕福さを築きあげた最初の世代になるものである。彼らの80パーセント以上は、何の相続も受けておらず、自分が私立校に通っていた人たちすら、20パーセントにも達していなかった。
ところが、その子孫たちは、半分以上が私立校に通っていたか、現在も在学中である。
そうした億万長者がその子供たちに、ことさらに特異な養育を与えたということは、いかに子供を援助し、しかもいかに台無しにさせないかとの難題をめぐって、助言者たちに明解な視点をあたえている。
ファイナンシャル・プランナーや会計士は、働き熱心な両親が、財産を分け与えることには賛成するが、その際には、一定の条件を付けるべきだという。
「資産は、恩恵になるのとおなじほど弊害にもなりうる」とデイビッド・スモーゴンは言う。「余りに多くの家族で、早い時期からの関わりが不足したがゆえに、子供たちには、お金の価値やそれを稼ぐための労力についての考えがない」という。
メルボルンの資産家モーゼス・スモーゴンの孫、デイビッドの家族はBWR誌掲載の「富裕者上位二百ランク」の長年の登場者で、2014年の同誌によると、27.7億ドル(約2500億円)相当の資産を所有している。
スモーゴンは、お金についての厳しい話合いをしないことが、無残な結果をまねくことを学んだと語る。それが、彼がプライスウォーターハウス・クーパーズと共同で、富を代々に長続きさせる最善の方法を家族に助言するコンサルタント業を設立した理由である。
「安直な会話のみでは、家族がどう生活し、親がいかに車を所有しているかなど、子供たちが経済的基盤について理解することは難しい。そして、子供たちはそれを、ただ譲ってもらえると期待していることがあまりに多い」とスモーゴンは言う。「成功する子供たちは、学校が休暇の時も家族の事業に関わり、お金をえることは、働きの報酬によることを教え込まれたからである」。
弁護士のジョージア・ホワイト(25)は、自分が豊かな家族的背景をもっており、両親による彼女への援助として父親が支払ってくれるクレジットカードに、自分が頼り切っていたことを認める。
「私はいい稼ぎをえていたが、予算をたてそれ守ることはしなかった。両親がいつかは、その支払いを断つだろうことは判っていた。しかし、その日がくるまで、なんの変化も起こらなかった」と彼女は言う。
センテニアル・ウェルスの取締役、ジュヤスティン・フーパーは、ホワイトは「お金狂い」になっていたのであり、彼女の両親が彼女をそうさせたと言う。その両親は、自分たちがその子供につくり上げた行動の典型的な結末を知るべきである。なぜなら、たとえ子供が自分の給料で支出をまかなっていると考えてはいても、自分の稼ぎ以上に使う習慣は容易には改められないからである、と彼は言う。
「両親は、子供たちを幸福にしたいだけだった、と言うだろう。しかし、彼らはそうして子供を、お金を蓄積させない環境に置き去りにしてしまっている。それは誰をも幸福にはしない」。フーパーは二十代初めの二人の子供を持っている。年に一度、彼は子供たちと面と向かい、例えば、いかに予算を実行するかについて教え、家族の経済的状況について話す。「彼らは、言われることからではなく、自ら実行監視することから学ぶ必要がある。そうして私は彼らに、自分の支出を監視し、あるお金を、出費が次第に増え注視の必要のあるその分野になぜ割り当ててきたのかの理由を示すことができる」と彼は言う。
彼の二人の子供は30歳になるまでに、彼らが真に気に入った仕事に就くだろう。彼の息子は、お金を援助されることを拒否し、24歳で就職した。彼の娘は学生で、一定の手当てを得ている。
二人とも若い頃は、フーパーの自宅事務所の書類箱に請求書類を提出し、家族の雑用にたずさわって小遣いをかせいでいた。
経済的責任感
経済的責任感をいかにして教えるかについてのカギは対話である、とハミルトン・ウェルスのウィル・ハミルトンは言う。
ハミルトンは、以前、ゴールデンサックス JBWere 私有財産部の部長で、今は、経済的援助を得る次の世代にどのように責任感をもたせ、そして彼ら自身の財産をどうやって築くかに関し、顧客との相談に当たっている。
「ある家族がどれほどにその子供たちに援助を与えるかの選択は、きわめて私的な決定です。しかし、私たちの主な役割は、そういう彼らに、その子供と対話をすることの大事さを伝えることです」と彼は言う。
ハミルトンは、〔家族の〕資産管理マネジャーと会う際に、両親は子供たちを、最初の時にではなく第二の時に同席させることを薦める。そうすれば、彼らは、投資戦略や、どういう不動産に住んでいるのかについて聞くことができる、と助言する。
最初に合う時は、それは両親のためのもので、そのトラストがどれほど価値のものにするかを判断し、まだ未定の、子供や若い成人に必要な額を決めるものです。
親が子供にお金を譲ろうとする時、ハミルトンは、私的補助基金(PAF)を設立するように薦め、子供に資金の分配や投資の株式や運営結果の監視に参加させる。
豊かな資産を持つ家族の不動産を管理するシドニーの会計士は、トラスト管理のために別の戦略を提案する。それは、第三者へその管理を任せ、家族メンバーは、その原資本にではなく、派生した収入にのみを使用できるというものである。
そしてそうした収入の一部は、その基金を増やすために再投入され、その残り部分が子供たちの間で分配される。
ウエストパック・プライベート銀行のアドバイザー、デヴィット・サイモンは、お金を稼ぐことに加え、貯金の重要性を子供たちに教育することにいっそう慎重になるべきで、両親は子供たちに、一ドル稼ぐごとに一ドルを貯金することを提案している。
さらに、車や高価な買い物が必要となった成人した子供には、利子と返金期間を明らかにしたローンとして与えられるべきと言う。親の中には、基金は親が保持管理し、一年ごとにそれを子供に贈る人たちもいる。
外にも、子供がまだ若いうちに学べる方法がある。例えば、ジャーナリストのエマ・ジャクソンは、祖母からティーンエージャー向けの貯金の本を贈られた13歳の時、貯金を始めた。彼女は、ベビーシッターや町のパン屋で働き、そのお金をすべて貯金した。そして彼女が20歳になった時、その貯金額は、大学のあるバサーストから一時間のリスゴウに15万ドルの家を買う際の頭金となった。
(以上は、20 December 2014付けのAustralian Financial Review 紙の記事 How to share wealth and not spoil your kids からの本サイトによる翻訳)