日本女性にとって、オーストラリアは世界でベストの移住先のようです。
外務省統計によると(下表)、日本人のオーストラリア居住者(永住と3カ月以上長期滞在者の合計)は、2019年で103,638人と初めて10万の大台にのり、米国(44万)、中国(11万)に次いで、世界第3位の多居住者国となっています。しかも、その変動率を見ると、増減のある米国、減少一方の中国に対し、オーストラリアは着実な増加を見せています。2015年以降5年間の増加率では、2018年の1.2%がむしろ例外なほどで、他は4~5%、2019年では5.3%という最大値を示しています。
さらに注目されるのが、その男女内訳です。最新データである2017年で、男35,790、女61,433の計97,223で、なんとほぼ男1対女2の割合です。
中国は一貫して男優勢ですが、オーストラリアのこの断然女性上位の特徴は、ビジネス目的の渡航が中心となる中国に対し、オーストラリアでは、個人の選択による渡航がその組織的なものを上回っていることを暗示しています。
米国の場合、やや女性が優勢ですが、中国とオーストラリアの混合のような数値です。
またオーストラリアについて、女性を年齢層別に見ると、若い層の増加率より、40歳台、50歳台の率がまさっていることも特徴です。これはおそらく、長期居住や永住となると、当然その準備に期間を要することがその理由かと思われます。オージーとの結婚を射止めるにせよ、収入や住宅を確保するにせよ、安住できる基盤を固めるには、むろん言葉の問題も含め、相当長期を必要とするわけです。
つまり、そうした諸困難を十年規模の努力をもって克服した結果の、40、50代の居住者の増加傾向なのでしょう。しかもそれが2対1で女性主導であるというのですから、日本女性のなかなかのしたたかさ――あるいは日本社会への希望のなさ――の現れと言えそうです。
コロナ期の2020年データはまだですが、むろん明白な停滞を示すはずです。
それが今後、コロナが終息に向かい、しだいに人々の動きが再開されれば、おのずから旅行も復活するでしょう。しかし、一旦蒸発した旅行業界の再整備は容易でなく、むしろ、削減され値上がりした航空事情やテレワークで刺激された移住需要など、いわゆる旅行より、新たなライフスタイルを求めた――あるいは悲願にも近い願望を託した――移住へと、動きの目的がシフトするのではないかと予想されます。
そこでですが、上記のようなオーストラリアをターゲットとした、女性先導でかつ着実な増加のデータは、コロナ以前でも、すでにその傾向が始まっていたことを物語っています。オーストラリアに限れば、旅行熱より移住熱の時代がすでに到来していたと言ってよいのでしょう。
ただし、若い世代の増加率が比較的低いというのは、最近になるほど、その移動行動を起こしにくくなっていることを示唆しています。そこにこのコロナ禍で、短期的には、出るのも入るのも鎖国状態です。
今後、ゆるやかに移動が開始されるとしても、それも予断を許さないコロナ感染の終息状況しだいです。したがって、この先の数年の見通しにおいては、上記の2019年の数値がピークであったこととなるのは確実でしょう。
そういう意味では、若い世代にコロナの及ぼしている影響はまさしく衝撃的で、大きく人生設計が狂わされた人も多いはずです。
昨年に出版した本『自‘遊’への旅』では、国境を越えることがいかに“目からウロコ”となるかを述べました。この本が、そうした衝撃をやわらげ、計画の立て直しに役立てば幸いです。